●アンコンシャスバイアスって?
アンコンシャスバイアスとは、ある社会集団に対して知らず知らずのうちにもってしまう固定観念や認識の歪み (バイアス) のことです。アンコンシャスバイアスは、性別だけでなく、人種や国籍、文化·民族的ルーツ、性的指向、職種、加えて外見など、あらゆる社会的属性や特徴に対して生じるもので、近年日本では、とりわけ性別にもとづくバイアスに関する情報発信が増えています (たとえば、内閣府, 2023)。
●大学ではどんな場面で見られるか
大学生活においても、アンコンシャスバイアスはさまざまな場面で見られます。たとえば、マネージャーを志願している男子学生に対し、「うちのサークル、マネージャーは女子限定なんだよね。ていうか、なんで男子なのに選手をしないの」と伝えている場面を想像してみましょう。ここには、マネージャーは女子学生が担うべきであるというバイアスと、そのバイアスに基づき、特定の人々の参与を阻んでしまう抑圧的なルール (ここでは、男子学生をマネージャーから排除する仕組み) があります。また、日本語を第一言語とし、日本国籍を有するいわゆる「ハーフ」の人に対して、「日本語上手いね!日本人みたい」と話している場面も思い浮かべてみましょう。この発言は一見すると褒め言葉のように映りますが、外見などによって「日本人ではない」とみなしているということが受け手に伝わり、そうしたメッセージが日常的に繰り返されることで、不快感や疎外感を抱かせてしまうことがあります (下地ローレンス, 2024)。
●どれだけ人権問題に意識的な人であってもアンコンシャスバイアスは生じうる
バイアスそれ自体は、人間が人や事物を認識する際にカテゴリーによって分類することによって、膨大な情報を効率的に処理するために発達したものであり、社会生活を円滑に送る上で「適応的」な機制に由来することが指摘されています (Eberhardt, 2018/2020)。先の例でも、女子マネージャーに日常あるいはメディア等で出会う頻度の高さや、典型的な日本人とは異なる容貌の人の場合、日本語を話せないことがあるという経験の繰り返しによって、「学習」した結果として生じる振る舞いやルールとも言えます。バイアスの背後には必ずしも常に悪意があるのではなく、無意識に身につけてしまった機制であるがために、さまざまな人権問題に対して深く関心を寄せている人ですら、認知や行動に偏りが生じてしまいうるのです。
●違和感や戸惑いを引き受け、想像力をもつことの大切さ
大学生活を共にする際に生じるある種の不安や孤立感を、特定の社会的属性や特徴を有する人にのみ押し付けないためには、上記のような「効率的」な処理に頼るだけでは不十分です。バイアスが偏見や差別へと化し、無意識に誰かを傷つけてはいないか、立ち止まって想像できるような新たな思考あるいは身体様式 (想像力) が求められると考えます。それは誤解を恐れずに言えば、マジョリティにとっては、ときに戸惑いや面倒くささを感じる体験にもなると思います。互いに異なる属性や背景を有する人々と生活することは、誰かを排除することで成立していた、かりそめの「居心地の良さ」を疑うことでもあります。
アンコンシャスバイアスにまつわる問題に取り組むためには、大学生活やその後の人生で、さまざまな人々との出会いを通じ、これまでの経験との齟齬から生じる違和感や戸惑いを引き受けること。「効率」的で「快適」なことから離れ、一人ひとりが想像力をもつことこそが重要だと思っています。
References
エバーハート·山岡希美 (2020). 無意識のバイアスー人はなぜ人種差別をするのか. 明石書店 (Biased: Uncovering the Hidden Prejudice That Shapes What We See, Think, and Do).
内閣府. 令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス·バイアス)に関する調査結果 概要版. https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/seibetsu_r04.html (Accessed: 2024/8/31)
下地ローレンス吉孝 (2024). アンコンシャスバイアスってなに?. 江戸川区人権・男女共同参画情報誌Colorful, 8, 2-5.
〈この記事を書いた人〉
町田奈緒士
奈良女子大学研究院人文科学系 専任講師。ジェンダー心理学・臨床心理学を専門にしています。アンコンシャスバイアスをはじめとし、ジェンダー学と深く関わる概念のまなびは、女子学生に限らず、あらゆる性別の人々に対して、自らのものの見方の解像度や感受性のセンサーを高める手がかりを提供してくれます。ぜひご自身の大学の講義や本などで、ジェンダーに関するまなびの芽も育てていただけたら、と思っています!