●「推し」について語りたいあなたへ
最近ではずいぶんと一般的な用語になってきた「推し」という表現。アイドルグループやバンド、漫画やアニメのキャラクターなど、誰 (何) を推すかは人それぞれ。『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない:自分の言葉でつくるオタク文章術』は、語彙力や文才がなくても、推しの魅力を自分だけの言葉で語るための「コツ」を紹介してくれる書籍です。
●「やばい!」しか出てこないのはあなただけじゃない
推しの魅力を言葉にしたいのに「やばい!」しか出てこない……。私自身、何度こう思ったかわかりません。でも、はるか昔、たとえば平安時代の人たちも同じような状況だったようです (笑)。「やばい」や「エモい」のように非常に便利な言葉が古語にもあります。「あはれなり」です。
そんなわけで、日本には昔から「感情が大きく動くこと」をひと言「あはれなり」でまとめてしまう文化があるわけです。そして、なぜ「あはれなり」でまとめられるかというと、もう、そう表現するしかないからです。(p.53)
それでもなお、自分の言葉で「好き」を言語化するということにはどんな意味があるのでしょう? 著者は、「好き」という感情は一時的で儚く、簡単にゆらぐと指摘しています。だからこそ、「好き」「やばい」といったありふれた感情を丁寧に解きほぐして「自分だけの言葉」にすることで、それらの感情を信頼できる形式で保存することが大切だというのです。
言葉にするのは面倒だったり、なかなかうまい表現が見つからずに悶々としたりすることもあるでしょう。そんなとき、この本が心強い味方になってくれるはずです!
References
三宅香帆 (2023). 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない:自分の言葉でつくるオタク文章術. ディスカヴァー.
〈この記事を書いた人〉
萩原広道
大阪大学大学院人間科学研究科助教。主な著書に『子どもとめぐることばの世界』(ミネルヴァ書房)など。ミニトマトが好物。