●今や生活必需品、サブスク
「サブスク」とはサブスクリプションの略で、一定料金を払うことで商品やサービスを何度でも自由に使うことができるというビジネスモデルです。皆さんにも馴染みのある動画配信のNetflixや音楽配信のSpotifyだけではなく、新車の定額利用やブランドバッグの使い放題などと幅広い分野に普及しているサービスモデルだと言われています。私自身もAmazon Prime VideoやAmazon Music Unlimitedを実際に利用しています。また、広い意味では、よくお世話になっているUSJの年パスも一種のサブスクと言えそうです。近年その勢いに拍車をかけているサブスクですが、今回は私が一番お世話になっている音楽サブスクにフォーカスしてみたいと思います。
●耳だけでも貸してくれ
ICT総研の予測によれば、日本国内の音楽配信サービスの利用者数は年々増加しており、本稿執筆時の2024年末の利用者数は約3,090万人と推計されるそうです (ICT総研, 2022)。これだけの流行が起きれば、副次的な変化も生じてきます。例えば、どの時代に発売された曲でもスマホ一つで聴けることや、Tik Tokなどでの流行も相まって「愛のしるし」(PUFFY) や「Timing」(ブラックビスケッツ) のように昔の曲が再ブレイクすることもあります。また音楽自体も、スキップされるのを防ぐために、テンポが速くなっていたり、イントロが短くなっていたりと変化しています。さらには私たちのアイデンティティにも関わってきます。サブスクによって誰でも手軽に曲を聴けるようになったため、音楽が自分の個性と結びつきづらく、マイナーな曲まで知っていないと個性として認識されなかったり、逆に浅い知識だといわゆる“にわか”にカテゴライズされてしまったりすることも考えられます。
●次の時代には
それでは、これからの時代にはどういった傾向が予想されるのでしょうか。井手口 (2023a, 2023b) は、サブスクは、利用者である私たちが聴いたことのある<既知>の楽曲と、私たちが聴いたことのない<未知>の楽曲を提供するという2種類の性質を持っている一方で、私たち利用者は<既知>を求める傾向の方がが強いため、<未知>を聴き続けるにはかなりの労力が必要だと述べています。しかし、この2つの性質を活かす動きを見ることもできると主張します。それがカバーです。カバー楽曲であれば、元の曲は<既知>でも、この歌手による歌唱は<未知>という2つの特性の融合を提供することができます。こうした動きはまさにサブスクの影響を受けたものと言えるでしょう。Remixやコラボといったアレンジ作品もこれに該当するでしょう。個人的な願望も混ざりますが、Live ver.なんかも流行していく素質を有しているかもしれません。ライブという一回性を反故にする可能性もありますが、まさに<既知>と<未知>の特性を持っている上に、コロナ明けによるライブの復権が起きている中で、新規ファン獲得の新たな手法としても効果を発揮することが考えられます。
References
ICT総研 (2022). 2022年定額制音楽配信サービス利用動向に関する調査. https://ictr.co.jp/report/20221111.html/ (Accessed: 2024/8/9)
井手口彰典 (2023a). サブスク時代の到来で変わる「人」と「音楽」の関係. https://www.rikkyo.ac.jp/closeup/research-n-faculty/2023/mknpps00000237j0.html (Accessed: 2024/8/9)
井手口彰典(2023b). 音楽サブスクリプションが社会にあたえる影響とその可能性について ―〈既知〉・〈未知〉から見た現代的音楽文化の様相― . 応用社会学研究. 65.
〈この記事を書いた人〉 青木海
大阪大学文学部人文学科比較文学専修。パンはメロンパン派。一人カラオケにもよく行くが、歌うのは専ら坂道系。好きなアーティストはSEKAI NO OWARIとサカナクション。