●世はまさに大就活時代
大学2年生である私は、就活 (就職活動) をまだ経験したことがありません。ただ、サークルの先輩や地元の友人から話を聞くことは多々あります。インターンがどうとか説明会がどうとか、大変そうな話を聞けど実際に体験してみるまでその実態を完全に理解することはできないでしょう。しかし、「四季報」などの就活本に目を通してみることで、心の準備や対策はできるかもしれません。いきなり書籍はハードルが高いというあなたには、こんな映画をオススメします。
●『何者』
この映画は『桐島、部活やめるってよ』でおなじみの朝井リョウ先生の作品が原作。登場人物たちはまさに就活に“いそしむ”大学生たち。作品内でもES (エントリーシート) やグルディス (グループディスカッション) の様子が描かれています。さまざまなサイトでも、就活のリアルが描かれていてあるあるが多いと言われています。しかし、そんな枠組みに収まらないのがこの作品の魅力。著者本人も「本当に書きたかったことは、就活によってあぶり出されてくる様々な毒のようなもの」と語っています。
●自己分析
本作に登場する人物たちの間には、内定の有無において差が生じています。中原 (2023)にもあるように「現実的な眼差し」が鍵であったと言えるでしょう。周囲のことは見えているのに自分自身については盲目的になってしまう。新約聖書にも「兄弟の目にあるちりは見えるのに、自分の目にある梁には、なぜ気がつかないのですか」(新日本聖書刊行会訳, 2017) と書いてあるように、就活で求められるのは、自己分析。他人のことではなくまずは、内省をする必要があるようですが、本作を見るとそれがどれほど難しいのかに気づきます。本当の意味での自己分析に必要なこととは、いったい何なのでしょうか。
●映画だからこその……
今回わざわざ映画版を選んだのは、最後のシーンがあまりにも印象的だったからです。(※ここからはネタバレ注意) 本作のクライマックスでは、分析上手と言われていた拓人 (佐藤健さん) が裏アカで友人を蔑むような投稿をしていたことが発覚し、その投稿を追う形で本編を冒頭から、演劇を模して振り返ります。文字だけでは決して表現できないこの壮大な伏線回収は、映画『LA LA LAND』(Damien Chazelle, 2016) や『コンフィデンスマンJP』(古沢良太, 2018) を彷彿とさせる映像作品ならではの描き方です。そしてその演劇の舞台は、毛嫌いしていたギンジ (藤原季節さん) の舞台とどこか似ているようにも見えます。たかが数分のシーンで、伏線回収を行うだけではなく、考察の余地さえ残す手法は圧巻と言わざるを得ません。
References
朝井リョウ(原作)・三浦大輔(監督) (2016). 何者.
インタビュー「誰にも知られたくない感情を書きました」朝井リョウ. 新曜社. https://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/333061/interview.html (Accessed: 2024/8/9)
インタビュー 朝井リョウさん「素晴らしき“多様性”時代の影にある地獄」. https://www3.nhk.or.jp/news/special/heisei/interview/interview_07.html (Accessed: 2024/8/9).
中原美紀 (2023). 朝井リョウ『何者』論 : 幻想と編集のゆくえ. 愛知淑徳大学国語国文, 46, 91-106.
新日本聖書刊行会翻訳 (2017). 聖書 新改訳 2017. いのちのことば社. (新約聖書マタイの福音書7章3節)
〈この記事を書いた人〉
青木海
大阪大学文学部人文学科比較文学専修。おにぎりはツナマヨ派。菅田将暉さんと佐藤健さんに関しては、仮面ライダーに出ていた頃から知っているので、古参だと思っている。ちなみに好きな仮面ライダーはオーズとドライブ。