top of page

116)大学の不祥事

●サークルや部活の不祥事

2023年は、大学運動部の不祥事が相次いだ年だった。某大学のアメリカンフットボール部や、別の某大学のボクシング部で違法薬物に絡む逮捕者が相次いだ。運動部以外の大学のサークルでも、いわゆる「一気飲み」の強制で新入生が急性アルコール中毒で亡くなる事件が後を絶たない。部活やサークルは、大学の管理が強く及ばない領域で、かなりの程度は学生の自主性、自治に委ねられている。


学生による自治が大事なのはどれ程強調してもしすぎることはないが、自治は時に閉鎖的な空間を生み出す。そこでは独自の権力構造や、「ノリ」が発生し、いじめや犯罪の温床となることも珍しくない。人間が大きな権力に頼ることなく、自分たちで自分たちのことを決め、管理し、健全に集団を運営していくことはできるのか、という論点は昔から多くの学者を悩ませてきた。政治思想で言う「アナーキズム」なども関連するこのポイントは、政治学における大きなテーマの一つでもある。



●研究の不祥事

大学の不祥事は学生によるものだけでは、もちろんない。文部科学省の予算配分又は措置により行われた研究活動において不正が認定された事案は、2021年度が14件、2022年度が15件、2023年度は13件となっている。盗用や自己剽窃、捏造や改竄などその内容は多岐にわたる。大学は、所属研究者が研究不正を行っていた場合には、処分を行うのが通例である。また、研究者の以前の所属先において行われた研究不正の場合には、現在の所属にかかわらず研究費の返還を求めるケースもある。研究不正は、当該研究者の信頼を大きく損ねるだけでなく、研究分野全体の評判も貶めるもので、決して許されるものはない。にもかかわらず、研究不正に手を染める研究者は後を絶たない。ちなみに、「撤回論文数」の世界ランキングでは、2024年7月時点で、30位以内には7人の在日日本人が名を連ねているうえ、3位以内に日本人は2人という結果になっている。日本の学術界の研究不正に対する認識が問われ続けている所以である。



●ハラスメント

研究不正ももちろん深刻な問題だが、ハラスメントの問題も「不祥事」の問題として極めて甚大である。ハラスメントは、被害者が相談しない場合も数多くあるので、実態を掴むのはなかなか難しい。ハラスメントの被害を受けたり、それを目撃したり聞いたりした場合には、大学の窓口に相談するのが定石である。大学側も、しかし、窓口担当者が利害関係者であるケースもあり、被害者の相談を受け付けやすい体制になっているとは言い難い面があるほか、大学が事態を表沙汰にしまいと、相談を握りつぶすケースも見受けられる。


アカデミックハラスメントの場合には、法務省が設置している「みんなの人権110番」(全国共通人権相談ダイヤル) が利用可能なほか、日本弁護士連合会も「人権救済申立てに関する手続き」を整備している。ポスドクや研究員など雇用関係がある場合には、厚生労働省が紹介している各種窓口 (「あかるい職場応援団」) を利用可能である。こういった各種手続きが可能であるのを、一人でも多くの人が知ることが、問題解決の第一歩に繋がる。



References



 

〈この記事を書いた人〉

杉谷和哉

岩手県立大学総合政策学部講師。著書に『政策にエビデンスは必要なのか』(ミネルヴァ書房)、『日本の政策はなぜ機能しないのか?』(光文社)。理事長や学長、学部長に呼び出される度に、心当たりが十個くらいあるのでいつもドキドキしている。

bottom of page