●いつまでもいると思うな指導教員
大学のホームページに掲載された教員一覧を眺めていると、ふと印象的なプロフィールの教員が目にとまる。「この先生の研究、面白そう。授業を受けてみてようかな」「授業を受けたらいい人そうだったし、この先生のゼミに所属して卒論を書いてもいいかも……」。だが、少し待ってほしい。その先生、いつまであなたの大学にいると思いますか?
●大学教員には分類がある
大学で教えていると、学生から「◯◯教授」という宛先が書かれたメールをよく受け取る。丁寧に敬称をつけてくれたつもりなのだろうが、「教授」というのは一般企業でいう「部長」や「課長」のような職階の一つであり、一般企業の社員が全員「部長」ではないのと同じように、大学教員が全員「教授」であるわけではない (執筆者も「教授」ではない)。学生から見ると、大学教員はみんな一律に教員 (「教授」?) であって、その中に身分や立場の違いがあるということはあまり意識されていないようだ。
職階とは別に、学生にとってより重要な区別として、「専任教員」と「非常勤講師」の区別がある。前者は一般企業で言う正社員に相当し、教育・研究だけでなく管理・運営業務など大学のさまざまな業務に携わっている。後者は決められた授業のみを担当する教員で、担当するコマ数に応じて給料をもらうアルバイトのような立場だ。もしあなたが興味をもった先生が非常勤講師の場合、その先生の授業がどれほど素晴らしく、研究がどれほど面白くても、その先生はあなたの指導教員にはなれない。
●大学教員の就職事情
大学教員の就職事情はかなり世知辛い。専任教員になれるまで、3~5年程度の任期付きのポストを転々としたり、複数の大学の非常勤講師をかけ持ちして糊口をしのいでいる。その生活は率直に言って過酷だ。任期付きのポストが得られれば数年間の収入は保証されるが、その先の将来がどうなるかは全くわからない。非常勤講師の仕事に至っては、そもそもの給料が極めて低いため、働いても生活に十分な収入さえ得られない「高学歴ワーキングプア」の状況に陥りがちである。
このような切迫した状況から一刻も早く抜け出すために、一般に、専任教員のポストを探し求める若手研究者はポストを選り好みしない。分野にもよるが、自分の専門に合致する内容の公募は年間数件しか出ず、しかも倍率は数十倍といったこともざらである。どんな大学の公募でも、少しでも可能性があれば応募せざるを得ないし、採用されたら喜んでそこに行く。とはいえ、研究者も人間である。専任教員として採用されたものの、家族やパートナーと離れて単身赴任のような形で生活している人も多い。また、膨大な管理・運営業務のために十分な研究時間を確保できないこともある。そんなわけで、一度専任教員になったあとも、より好条件のポストがあれば応募し、今いる大学を出ていく教員は少なからずいる。
学生にとっては悲しいことだが、教員には教員の人生があると割り切るしかない (念のため付言しておくと、良心的な先生なら異動したからといって卒論指導の途中で学生を放り出すことはなく、何らかの形で指導は続けてくれるはずである)。
References
水月昭道 (2007). 高学歴ワーキングプア. 光文社
櫻田大造 (2011). 大学教員 採用・人事のカラクリ. 中央公論新社
〈この記事を書いた人〉
佐野泰之
高知大学人文社会科学部講師。専門は西洋哲学。主な著書に『身体の黒魔術、言語の白魔術――メルロ゠ポンティにおける言語と実存』など。