●アカデミックハラスメントとは?
アカデミックハラスメント (アカハラ) という言葉は、大学などの教育・研究の場に特有のハラスメント、特に近年では、そのような場における「セクシュアル・ハラスメント (セクハラ) 以外の嫌がらせ、いわば大学や研究関係者の間のパワハラ」(北仲・横山, 2017) を指すために用いられる。この定義に従えば、アカハラはパワハラ (パワーハラスメント) の一種であるということになるが、それが「アカハラ」と特別に名指されるのは、教育・研究の場には教員と学生の「指導関係」という労働者にはない特殊な権力関係や、学問の世界に特有の被害が存在するからである。
アカハラの具体例としては、たとえば以下のような行為が挙げられる (北仲・横山, 2017)。
※以下、ショッキングな内容を含むので読む際には注意してほしい。
学生を怒鳴りつけミーティングでの発表をさえぎったり、座ってる椅子を蹴ったりするなどの言動を繰り返した。
自分の研究室の学生に対して卒業研究の十分な指導をせず、卒業研究とは関係のない作業をたびたびさせていた。
研究室の学生に対し、論文を提出する段階になって全て書き直すよう指示したり、体調を崩した学生に「死んでも研究を続けなさい」と話したりした。
学生に対し、研究室内で長時間にわたって自分の考えを繰り返し過度に押しつけた上、交友関係など学業と無関係なことに踏み込んで非難した。
部下の若手教員に対して、明確な貢献があるにも関わらず研究論文の共著者に加えなかったり、上司として必要な研究支援を疎かにしたりした。
こうした例からうかがえるように、アカハラは教員と学生の間だけではなく、高名で地位の高い研究者とキャリアの浅い若手研究者の間にも起こりうる。また、怒鳴りつけるなど高圧的な態度で接することだけでなく、学生を指導すべき立場にありながら指導を放棄するという行為 (ネグレクト) もアカハラとなりうる。
●アカハラだと感じたら……
一般に、パワハラ・アカハラとそうでない行為を区別する基準は、その言動が「常識的な、適切な範囲を超えていること」だとされている (北仲・横山, 2017)。とはいえ、学生の立場で自分が受けている指導が「適切な範囲を超えている」かどうかを判断することは難しい。自分が所属する研究室の中では「常識」とされていることが、第三者から見てもまったく問題ないと言えるとは限らない。教員の言動が「ハラスメント」と呼びうるかどうか判断がつかなくても、そこから大きなストレスを受けているなら、大学のハラスメント相談室に相談してみることが大切だ。
References
北仲千里・横山美栄子 (2017). アカデミック・ハラスメントの解決. 寿郎社

〈この記事を書いた人〉
佐野泰之
高知大学人文社会科学部講師。専門は西洋哲学。主な著書に『身体の黒魔術、言語の白魔術――メルロ゠ポンティにおける言語と実存』など。